前回の記事では、iOS 27 の Foundation Models で Private Cloud Compute(PCC)を使うには App Store Small Business Program への加入が必要で、その手前に有料アプリ契約や法人情報の審査が並んでいる、というところまで書きました。この記事はその続きで、無料アプリしか出していない個人事業主が、有料アプリ契約を有効にして Small Business Program に申請するまでに実際に入力した内容の記録です。
対象は「個人事業主だが、販売元名を屋号にしたくて 組織(Organization)アカウント で登録している」人です。個人アカウントの人は画面も選択肢も違うので、この記事の悩みはほぼ発生しません。
目次
- 全体の順番
- コンプライアンス審査に出した書類
- 有料アプリ契約の同意は 2 回目で通った
- 銀行口座の登録でつまずく点
- 納税フォームは 2 種類とも法人向け
- 個人の選択肢がないときに何を選んだか
- 租税条約の欄の埋め方
- Small Business Program の申請
- 費用はかかるのか
- 現在地
全体の順番
App Store Connect の「ビジネス」画面で、次の順に進みました。所要は、Apple 側の審査待ちを除くと 1 時間ほどです。
| 順 | 作業 | 結果 |
|---|---|---|
| 1 | 法人情報の修正(郵便番号をハイフン付きに) | 保存できた直後にコンプライアンス審査が出現 |
| 2 | コンプライアンス審査: 英字の法人名を示す書類を提出 | 翌日に「受理」のメール |
| 3 | 有料アプリ契約(Schedule 2)に同意 | 1 回目は無言で失敗、2 回目で成功 |
| 4 | 銀行口座を追加 | 「処理中」 |
| 5 | 米国の納税調査票に回答(米国居住者か、米国で事業活動があるか) | 2 問とも「いいえ」 |
| 6 | 納税フォーム 2 件を提出 | どちらも即時「有効」 |
| 7 | Small Business Program に申請 | 受理、審査待ち |
3 以降は、契約・口座・納税のそれぞれに「本人の宣誓」のチェックがあります。私は作業の多くを自動化ツール(ブラウザ操作エージェント)に任せていましたが、宣誓や署名にあたるチェックはツール側の安全装置で止まるようになっていて、そこだけ自分でクリックしました。契約を結ぶのは本人、という設計は妥当だと思います。
コンプライアンス審査に出した書類
前回の記事で「英字で法人名を示す書類」を求められたと書きました。個人事業主の屋号は登記簿に載らないので、何を出せばよいか迷います。
出したのは、D-U-N-S 番号を取得したときに Dun & Bradstreet から届いた確認メールです。事業名が英字(大文字)で、住所と一緒に記載されています。組織アカウントで登録している人は、登録時に必ず D-U-N-S 番号を取っているので、このメールは手元にあるはずです。メールの画面をそのまま画像にして提出し、企業ウェブサイト欄にはサイトの URL、企業系列は「なし(個人事業主)」、事業活動を行っている国は日本だけを選びました。
翌日、Apple から「Your information has been accepted」のメールが届きました。開業届の英訳などは不要でした。
有料アプリ契約の同意は 2 回目で通った
契約の表に「利用規約を確認して同意」が出るので、Schedule 2 の全文を表示し、チェックを入れて「同意する」を押します。ここで 1 つ罠がありました。
1 回目は、ダイアログが閉じただけで何も表示されず、ステータスも「新規」のまま。通信を見ると、同意を送る POST にサーバーが 403 を返していました。画面上にはエラーが出ません。もう一度同じ操作をしたら 200 で通り、ステータスが「ユーザ情報を保留中」に変わりました。原因は分かりませんが、「同意したはずなのに変わらない」ときは、エラー表示を待たずにもう一度やってみるのが早いです。
同意すると、Apple から「Paid Applications Agreement … is available」というメールが届きます。これは受理の通知で、契約が有効になったわけではありません。有効になるのは、銀行口座と納税フォームが揃ってからです。
銀行口座の登録でつまずく点
- 口座名義はカタカナか英字。日本円口座の場合、名義人名は通帳どおりのカタカナ(または英字)で、姓と名の間はスペースです。漢字は受け付けません。
- 金融機関コードは銀行 4 桁 + 支店 3 桁。画面の「金融機関コードが不明な場合」の検索は、ネット銀行の支店名では見つかりませんでした。全銀協のコード一覧サイトで調べて 7 桁を直接入力すると、Apple 側が銀行名と住所を自動で表示してくれます。それが出れば正しいコードです。
- 口座名義と法人名が違っても登録はできる。名義は個人名、法人は屋号という組み合わせでも、名義人の種類を「個人」にして通りました。ただし Apple は「口座情報が間違っていると支払いが拒否される」と注意しているので、売上が出る予定のある人は銀行に確認したほうが安全です。
最後の「証明」画面は、入力が正しいことと、Apple とその関連会社が口座へ電子送金(誤入金の取り消しを含む)することを許可する内容です。
納税フォームは 2 種類とも法人向け
銀行口座を入れると、納税フォームの欄に「米国の納税調査票」が出ます。「米国居住者か」「米国で事業活動をしているか」の 2 問にいいえと答えると、提出すべきフォームが 2 つ並びます。
- U.S. Certificate of Foreign Status of Beneficial Owner(Apple 独自の簡易な宣誓書)
- U.S. Substitute Form W-8BEN-E(IRS の法人向け様式を Apple が画面化したもの)
どちらも「3. Type of Beneficial Owner(受益者の種類)」の選択肢は Corporation、Disregarded entity、Partnership、各種 trust などの事業体だけで、Individual(個人)がありません。組織アカウントだからです。IRS の定義では日本の個人事業主は「個人」で、本来は W-8BEN(個人用)を出すべき存在なので、ここで手が止まります。
個人の選択肢がないときに何を選んだか
調べた結果をもとに、Disregarded entity を選びました。根拠は 3 つです。
- IRS の定義に最も近い。W-8BEN-E の記入要領では、Disregarded entity は「単一の所有者を持ち、法人ではなく、所有者と別の存在として扱われない事業体」です。屋号の個人事業はまさにこれで、実態は所有者個人です。一方「Corporation」を選ぶと、法人でないものを法人だと宣誓することになります。
- Apple 自身が厳密な分類を求めていない。同じ状況の個人事業主が Apple の Finance チームに問い合わせたところ、「できる範囲で記入し、受益者の種類は他の種類から選べばよい。屋号は Reference Number 欄に書くこと」という回答だったそうです(spaceyomi さんの記事)。
- 先行事例がある。Title に「Sole proprietor」と書いて 2 つのフォームを出し、契約が有効になった記録があります(hk_work さんの記事)。W-8BEN-E を出したあとで IRS の個人用 W-8BEN をアップロードし、Apple 側で差し替えてもらった例もあります(zawascript さんの記事)。必要になればこの手も使えます。
Disregarded entity を選ぶと「この事業体はハイブリッド事業体として条約を申請しますか」という追加の質問が出ます。ハイブリッド事業体とは、米国では課税上透明(所有者に課税)、相手国では透明でない事業体のことです。日本の個人事業主は日本でも米国でも個人として課税されるので、No です。
入力したものを表にまとめます。2 つのフォームとも同じ方針です。
| 項目 | 入力 |
|---|---|
| 名称 / 国 | 屋号 / 日本(アカウント情報から自動、変更不可) |
| Type of Beneficial Owner / Chapter 3 Status | Disregarded entity |
| ハイブリッド事業体として条約申請するか | No |
| 住所 | アカウントの住所(自動) |
| 米国 TIN / 外国 TIN | 空欄 |
| Reference Number | 屋号 (sole proprietorship of 代表者名) |
| 署名者 / Title | 代表者名(自動) / Sole Proprietor |
租税条約の欄の埋め方
W-8BEN-E の Part III は日米租税条約の適用を申請する欄で、ここを埋めると米国からの支払いに対する源泉徴収が 0% になります。アプリの売上は「事業所得」で、米国に恒久的施設(支店や事務所)がなければ米国で課税されない、という条約第 7 条の話です。
- 「受益者は日本の居住者である」にチェック
- 「所得を得ており、特典制限条項(LOB)の要件を満たす」にチェック。LOB の種類は個人向けの選択肢がないので「Other」を選び、「Article 22, paragraph 1(a) (individual resident of Japan)」と記入。個人は条約上そのまま適格居住者なので、根拠条文を書くだけです
- 条項と税率: 「Article 7, paragraph 1」「0」%
- 所得の種類: 「Income from the sale of applications」
- 追加条件の説明: 米国に恒久的施設のない日本居住の個人事業主の事業所得である旨を一文
「Other」を選ぶと必須の記入欄が 1 つ増えます。これを埋めないと「送信」が有効にならず、チェックをいくら入れても押せません。私はここで数分悩みました。
送信すると、どちらのフォームも即座に「有効」になりました。審査待ちはありません。有料アプリ契約のステータスは「ユーザ情報を保留中」から「処理中」に変わり、あとは Apple 側の処理待ちです。
Small Business Program の申請
有料アプリ契約の同意さえ済んでいれば申請できます。納税フォームや口座の処理完了は待たなくても進めました。
申請フォームの質問は 5 つだけです。
- 最新の有料アプリ契約を承諾したか: Yes
- 他の Apple Developer Program アカウントの過半数持分を持っているか: No
- 他のメンバーが自分のアカウントの過半数持分を持っているか: No
- 他のアカウントの最終決定権を持っているか: No
- 他のメンバーが自分のアカウントの最終決定権を持っているか: No
最後に「過去 12 か月の収益が 100 万ドル以下」の宣誓にチェックして送信すると、「Thank you for your submission」と表示され、結果はメールで来るとのことです。
費用はかかるのか
かかりません。有料アプリ契約の承諾、納税フォームの提出、Small Business Program への加入、PCC の利用枠(加入中で累計初回ダウンロード 200 万未満)はすべて無料です。発生するのは Apple Developer Program の年会費だけで、有料アプリやアプリ内課金の売上が出たときに初めて手数料(加入後は 15%)が差し引かれます。
現在地
Small Business Program の審査待ちです。承認されたら PCC entitlement の申請フォームが開けるようになるはずなので、そこまで進んだらまた記録します。
振り返ると、技術的な難しさはどこにもなく、「個人事業主なのに法人向けの書式しか出ない」という制度の隙間で立ち止まった時間がほとんどでした。同じ場所で止まっている人の判断材料になれば幸いです。なお、税務上の判断はご自身の状況で変わります。売上が見込まれる場合は税理士に確認してください。